すぐ寝る店主のハンバーグ屋

ふいに新宿で何度か訪れたハンバーグ屋のことを思い出した。味は確かだけどすぐに寝てしまう店主がやっていたハンバーグ屋だ。

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その店はJR新宿駅東口から少し歩き喧騒も落ち着く頃合いにちょこんと建つ古いビルの2階にあった。やたら角度のついた階段が待ち構えるそのビルは、何も知らず入るには少し勇気のいる場所だろう。

店主は多分50も半ばくらいのおじさん。おじさんの作るハンバーグはとても美味しかった。和風ハンバーグが好きだったのでそればかり食べていたが、ホワイトクリームのハンバーグもピンクペッパーがアクセントになっていたりと存外に小洒落ていて人気メニューだった。食後にはコーヒーが出され居心地もいい。ジュースは「J」と表記する。「オレンジJ」「パインJ」。独特だ。

当初はハンバーグだけだったのだが、カレーのメニューも追加された。元々この場所にあったのが人気のカレー屋だったため、間違えて入店してしまった人たちに向け用意したらしい。優しいのだ。かくいう自分もそのカレー屋をめがけてこの店にたどり着いたのがきっかけだった。

おじさんはのんびり屋だった。それも度を越すほどののんびり屋だった。客がいようが彼はいきなり寝てしまう。奥の椅子に腰掛けカクカク眠る。一人で切り盛りしている店なのにだ。お勘定も適当だ。我々が何を食べたかよく覚えていない。レジも苦手らしい。この店で無償でたまに働こうか…そんなことを同行者と話したような気もする。

気まぐれな店主なのでいつやっているかもバラバラだ。友人達を連れてきては閉店日で諦めたのことも一度や二度ではない。気まぐれだから…そんなことを思っていたら次第に開店しているときが日に日に少なくなり、ある日忽然と消えてしまった。とても寂しかった。

いまおじさんはどこで何をしているだろう。あれほど美味しいハンバーグを作れるならどこかでまた店を出していてもおかしくない。

今のご時世インターネットで本気になって調べれば彼がいま何しているかもわかるかもしれない。ただ、あのおじさんにはいつかどこかで偶然、たまたま会いたいなと思う。よくわからないけど、またひょっこり会えそうな気がしているのだ。